TITANE チタン「俺がついてる」痺れる台詞だけどこれからどうする気?

カンヌ最高賞パルムドールを獲得し、カンヌ史上最も奇天烈と評された本作。
ならば観るしかあるまいと、予告を見たときから迷いはあれど腹をくくって劇場へ。
公開早々鑑賞したのだけれど、いまだ自分の中で感想まとまらず。トンデモ映画
そういう意味も含め、新たな映画体験というか。ね。

Ⓒkazak productions-frakas productions-arte france voo2020

アレクシアは子どもの頃交通事故にあい、右耳の上辺りにチタンプレートを埋め込まれている
その結果なのか、車を愛の対象として執着したり、突発的な殺人衝動を抑えきれなくなったり。
そのうち車との間に子をなし、数件の殺人を犯したアレクシアは警察に追われる身に。
逃亡中のアレクシアはニュースで流れていた10年前に失踪した少年アドリアンになりきることにする。
外見を手荒な手段で変え、さらしを巻いて体の凹凸を隠し、少年の父ヴァンサンの元で息子アドリアンとして新たな生活に入る…

冒頭、少女アレクシアが父親の運転する車の後部座席に座っている。
彼女はエンジン音に合わせて唸るように音を出している。子どもならやりそうなこと。
だけどそれが気に障った父親は止めるように注意し、それが気に食わない彼女は座席を後ろから蹴り出す。
で、振り返った父親が前方不注意になった結果事故は起こる。
アレクシアが扱いにくい性質であることは十分伝わる。さらにチタンプレート埋め込み手術の後、病室の外の父親を睨みつける目がね、完全に逝っちゃってる。悪魔的な表情なの。
退院してすぐ車にへばりつくように抱きついてキスをする姿が印象的。

大人になったアレクシアはモーターショーで、自らが担当する車の上で扇情的なダンスを繰り広げている。
彼女目当てのファンも多く、ショーの後付きまとってくる男をかんざしで刺し殺す。
「あ、かんざし…!」と観ていて思う。
というのも劇場に来る途中、エスカレーターで降りてくる前回鑑賞後の人が「かんざしがさあ」と話しているのが聞こえてしまったのだ。やーめーてーってなる。本当どこにネタバレトラップが仕掛けられているかわからない。
アレクシアはかんざしでばっさばっさと人を殺していく。仕事人か。
痛いシーンが多いので、前半ほとんどスクリーンを直視していられない
最高に痛そうなのが、少年になりすますために自分の外見を変えるため、自らを激しく殴り鼻を折るシーン。この日何度目かの、やーめーてーくーれー

少年の父ヴァンサンを演じるのはヴァンサン・ランドン
この人、大好きな映画『君を想って海をゆく』の水泳コーチだったのだけれど、今回は全く違う役どころ。
ジュリアン・デュクルノー監督がヴァンサン・ランドンに当て書きしたのだとか。
消防隊の隊長で若手に対し暴君のように振る舞っている。自分を「神だ」と言ってのけるような人。
自分の老化に抗うように筋トレをし、夜な夜な臀部にステロイド注射をする。
アドリアンを強引に自分の隊にねじ込み、疑いを持つ若手を封じ込める。

ストーリーを牽引していたアレクシアの突飛さから、後半は息子ではないと分かっているのに頑なに息子との生活を維持しようとするヴァンサンに目が行ってしまうのが自分でも分かった。
アレクシアが異物を腹の中で膨張させ、出血や母乳の代わりに真っ黒なオイルを体内から流しているのに!


乱暴にまとめれば、色々ばれながらも二人は絆を深めていく。
ラスト、アレクシアが産んだ赤ちゃんには鋼鉄の背骨が見える。
息絶えたアレクシアの脇で、赤子を抱き上げたヴァンサンは言う「俺がついてる
やー。痺れる。すごい台詞。
しかし冷静になれば何も解決していない。どうする気?大丈夫なのか、ヴァンサン


そしてやはりラストでこの話の主人公はアレクシアではなかったのだと感じる。
痛いシーンが多くて半分くらいスクリーンを直視できなかった。
好きか嫌いかと言えば、嫌い。でもとても映画らしい映画