アイム・ユア・マン 恋人はアンドロイド「だってアルゴリズムじゃない」それを恋と呼んではいけない?
学者のアルマは研究資金を得るため、ある実験に参加する。
それは自分のために最適化された高性能アンドロイドと暮らすというもの。
はたして人間とアンドロイドの間に恋は成立するのか…というお話。
原題はIch bin dein Mensch(独)でI’m your Man(英)と同じ。
僕は君に最適な男、とでも訳しておく。
舞台は現代のベルリン。少しだけ近未来なのかな。
主人公アルマは自分の研究が第一。かつて暮らしていた同僚の恋人には、新しい家庭がある。
アルマの前に現われたのは、高性能アンドロイドのトム。完全無欠の美青年。事前のアンケートを反映し、アルマ好みに設定されている。
トムの使命は、アルマをしあわせにすること。
独女性93%が喜ぶシチュエーションや口説き文句を展開するトムに「私は残りの7%なの」とすげなく返すアルマ。
ぞんざいに扱われても、都度学習していくトムがいじらしい。なのでアルマの偏屈ぶりが際立ちます。
そんなアルマも徐々にトムに心を開いていく。だが所詮人間ではないという点で葛藤する。
試験期間を終え、アルマはこの試作品に対して否定的な判断を報告する。
お役御免となったトムは、開発企業にも戻らず行方知れずとなる。
アルマは必死に探し、とうとう初恋の男の子と出会った場所でトムを見つける。
アンドロイド役のダン・スティーヴンスがぴったりだった。
車の助手席で目をキラキラさせながら流れる景色を見ているのが、本当に機械っぽくて印象的。
堅物のアルマ役のマレン・エッゲルトの、トムと結ばれた翌日満たされて美しく変化する表情にも感嘆する。
またアンドロイド製造会社の社員で、アルマの担当者も実はアンドロイドっていうのがいかにも!っていう笑顔でうまかった。総じて配役がよかった。
アルマはトムに惹かれるが、でもそれは結局自分のために調整されたアルゴリズムの結果だから、と葛藤し否定する。
その葛藤は分からなくもない。自分好みのパートナーが自分好みの反応をして自分が満足する、というのは壁打ちテニスというか、結局は独り相撲というか。でも大事なのは、結果自分は満足しているという現状でしょう?
それを恋と呼んでもいいんじゃないかしら。何がきっかけにしろ自分の気持ちの動きが「恋」や「愛」なのだと思う。
そして自分にとって最高のパートナーと思えるのなら、相手がアンドロイドだって人間だって変わらないのでは。実験参加者の中には自分のアンドロイドパートナーを「彼女は最高、私をこんなにも幸せにしてくれるなんて。実験後引き取りたい」という人もいた。私も引き取るかもなあ。
お気に入りの台詞
「あなたがいないとただの人生なの」「それを愛と呼ぶのでは」
「いつも卓球台のこちら側に寝るの。なぜだかわからないけどこちら側がいいの」
「いつも目を開けると一人だった」
ラスト再会して思い出を語るシーン。ドラム缶の上かなんかに二人寝そべって。
「今と言ったら今なの」
自暴自棄になったアルマが自分を抱けと命令する。でも相手してもらえない。
「私のアルゴリズムのためでしょ。とても手放せないからあなたから去って」
トムに必要以上に近づきすぎてしまったと自覚し、傷つかないように守りに入っているアルマが切ない。
「それは自分のキャリアに対する利己的な涙?」
これは3年もかけて心血注いでいた論文テーマを他国チームに先に発表されてしまい悲嘆にくれるアルマを追いかけてトムが冷静に声をかけるところ。
正直恋愛だけの幸せをもたらすパートナーとしてのアンドロイドではなく、こういう仕事面で的確なアドバイスをくれるという点に、ものすごく惹かれます。
というわけで
それほどしあわせな気持ちになれるのであれば、それがアルゴリズムの結果だっていいじゃないか。