テノール!人生はハーモニー「あたし、寿司は日本でしか食べないの」

ラッパーのアントワーヌは寿司のデリバリーバイトでオペラ座ガルニエ宮にやってくる。授業中の生徒に揶揄されて腹いせにオペラの歌真似をしてみせる。オペラ教師マリーは彼に才能を見出し、クラスに参加するよう説得。世界が違うと思っていたアントワーヌもテノール歌手として訓練していくうちオペラに魅せられていき…。

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原題 Tenor

そのまんま、テノール。邦題は何でも副題がついて冗長。

オペラ座の映像と歌声を堪能する作品

というわけで劇場の音響と大画面で楽しむのがよいかと。
以下、印象的な台詞で少し振り返り。

「スシは日本でしか食べないの」

オペラ教師マリーは寿司のデリバリーを頼むことでアントワーヌに会おうとし、説得を開始するのだけれど、そのときの台詞。アントワーヌは最初マリーがデート目的で自分を誘っているのだと勘違い。

しかし日本人が関わっていない海外のお寿司屋さんのお寿司って一体どんな味がするのだろう。寿司とスシは別物なのか。
余談だが小学校の担任の先生の名前が寿司(ひさし)で、年賀状が来たとき父が「なんで寿司屋から年賀状が来るんだ?」って言ったことを思い出す。こういうどうでもいいことって意外と忘れられない。

ラップバトルでシマを守れるのか?

アントワーヌは移民なのか、低所得者層のエリアで暮らす。父代わりの兄が違法の拳闘賭博で稼いでおり、そのお金で税理士の学校に通う。兄がグループのリーダーで、アントワーヌは経理を任されている。授業のない時間に寿司のデリバリーのバイトに勤しみ、休む暇がない。賭博の見張りのときなど空いてる時間でラップの歌詞を考えているが、薬の売人なのではと警察に職務質問されたりする日々。

似たような立場のグループが近所にいて、両者は定期的にラップバトルをする。その勝負が結構重大事になっている。背景がよく分からないけど、そんなことでシマが守れるのか…?

兄弟には離れて暮らす母がいて、心配かけないようにビデオ通話で連絡を取っている。
アントワーヌがオペラの勉強で見張りを怠ったとき、警察の手入れが入り兄が逮捕される。

「いつかきっと役立つよ」

アントワーヌは差し入れにくるくる巻いた紙を持ってくる。
なんと日本の観光ポスター。実は母に兄が仕事で日本へ行っているということにしてあった。
母が電話で「私の息子が日本に行くなんて、なんて素晴らしいの!」とか言ってて、久しぶりに映画に出てきた日本がどういう位置付けなのかしばし考える。ポスターの写真を風景に見立てて通話するんだけど、季節違いの2パターンのポスターしかなく、強面の兄が右往左往するのがおかしい。さらに留置場のほかの人の会話が聞こえてしまうので「おまえら日本語で話せ!」とか無理な注文をつけたり。

「高額寄付者の特権だ」

アントワーヌがオペラを学ぶきっかけになった「スシ野郎、失せろ」と言ってきたお金持ちのロシアの青年(たしか)がオペラを学ぶうちによいライバルとなっていく。オーディション前に、アントワーヌが兄や仲間にこんな生活はたくさん、オペラをやりたいと気持ちをぶちまけて行くところを失くす。そのときオペラ座の屋上に連れて行ってくれ、そこからの眺めを見せてくれて彼が言う台詞。

この映画、オペラ座の撮影協力を得ているので、ふんだんに美しい内部が映し出される。この屋上からの景色は本当眼福。

オーディションで歌いきって終わり

ラストはオーディションに参加したアントワーヌが、仲間たちに見守られながら『誰も寝てはならぬ』を歌いきって終わり。
結果やこれからの生活がどうなるかなんて、どうでもいい、という潔いというか斬新というか。
アントワーヌの歌声と歌い切った満足げな表情が印象的。

おまけ。帰り際「主人公の髪型、最後までもっさりしてたね」と話していた人がいて、みんな同じようなことを考えてたのねって。