ロング・グッドバイ「カレー印のキャットフードは置いてる?」

私立探偵フィリップ・マーロウの家に長い付き合いの友人テリーがやってくる。妻と喧嘩したのでしばらくメキシコに行きたいと言う彼を国境まで送るが、その後彼の妻が殺されていたと知る。マーロウは警察にテリーを匿っていると疑われ逮捕されるが、彼が自殺したとの一報が入り…。

poster illustration by Jack Davis

レイモンド・チャンドラーのハードボイルド小説『長いお別れ』ロバート・アルトマン監督が映画化。1973年、米映画。

原題 The Long Goodbye

原作小説とタイトル同じ。だが中身は違う。別物として割り切って楽しまないと。

私の知っているフィリップ・マーロウは居ない

小説のあの名言 “To say goodbye is to die a little"などは出てこない。
冒頭、エリオット・グールド演じるフィリップ・マーロウは愛猫に起こされ、餌をやる。お気に入りのブランドの猫缶しか食べないので、深夜スーパーマーケットまで買いに出向く。あのマーロウが。

「カレー印のキャットフード、ある?」

そもそもフィリップ・マーロウが愛猫家っていう設定に驚く。そしてハードボイルドの私立探偵はハンフリー・ボガードのようなトレンチコートの襟を立てている渋い男性のイメージがあるので、本作のひょろりとしてくしゃくしゃの服を着るような人ではないので、自分の中で最初原作との整合性が取れず、戸惑う。
マーロウと言えば、やっぱりこんな感じ↓でしょう?

ロバート・アルトマン監督は原作を読んでおらず、脚本で監督を引き受けたのだそう。
脚本のラストではなんとマーロウはテリーを射殺してしまう。もう完全に別物だな。でもこのマーロウなら撃つのは必然のようでしっくりくる。最後、通り過ぎる女に一瞥もくれず去っていくのは『第三の男』的だと思う。

もう一回小説を読んでみようと思った。そして公開されるリーアム・ニーソンの『探偵マーロウ』もちょっと見てみたくなった。