離ればなれになっても「大きく考えてみて」

1982年ローマ。パオロ、ジュリオ、リッカルド、ジェンマは16歳。パオロとジェンマは恋に落ち、親友たちと青春を謳歌していた。だが母を亡くしたジェンマはナポリの叔母の元へと二人は離ればなれに。7年後、偶然再会したジェンマはすれっからしになっていて…。出会いから40年に渡る4人の物語。観てよかったー。

©2020Lotus Producyion s.r.l. 3Marys Entertainment

原題 Gli anni più belli

イタリア語で最も美しい年、かな。英題は"The Best Years"
題名から仏映画『男と女 人生最良の日々』"Les plus belles annes d’une vie"を思い出す。

4人それぞれの人生と続いていく友情のお話

予告やポスターを見るとパオロとジェンマ二人の紆余曲折の恋物語のようだが、青春を分かち合った4人それぞれの半生と続く友情が描かれていた。もちろん恋物語も主軸ではあるのだけれど。

パオロ

ルーシーという鳥を飼っていて、授業で熱く発表するような生真面目な少年。真剣に聴いてくれていたジェンマと恋に落ちてからずっと好きでいる。
卒業後は臨時講師をしながら、母親のカフェを手伝っている。母親と同居。

ジュリオ

貧しいながら金を貯めてポンコツ車を入手し、地道に修理し乗れるようにする。が、修理工の父親が勝手に売り払うなど劣悪な環境の中、反面教師として真っすぐに育った少年。パオロとは親友。
正義のために戦う国選弁護人となるも、優秀さ故大手事務所に引き抜かれて大臣の弁護で勝利してからは俗物化していく。
少年期と卒業後ではキャストが変わるのだが、いきなり老け顔のジュリオに笑ってしまった。流石に二十代を演じるのは無理かと。

リッカルド(いきのび)

ライブハウスの傍で暴動に巻き込まれ大怪我したところを、偶然パオロとジュリオに助けられる。金持ちの息子で二人を別荘に招待してくれ、ひと夏を過ごし親友となる。九死に一生を得て生き延びたからあだ名はイキノビ
リッカルドは映画評論家を志しながら、エキストラの仕事をしている中で女優志望の娘と結婚し、三人の中で一番先に家庭を持つ。息子が一人。

ジェンマ

宝石という名前がぴったりのキラキラした少女。同級生のパオロと恋に落ち、彼の親友たちとも親しくなる。闘病中の母が亡くなったことでナポリの叔母に引き取られることに。最後の日に二人は結ばれ連絡を取り合うことを約束するも、遠距離になってからは寂しさを埋めるために悪い仲間たちとつるむようになりすれっからしに変貌。
ジェンマも少女時代と卒業後がこんなにも人は変わるのか!?ってくらいすれっからしになってしまい衝撃。

人生いろいろ

物語は4人それぞれの人生をそれなりに追っていくのだが、非常に荒っぽいが気に入った台詞とともに振り返ってみたい
行きますよ?覚悟してね。

7年後

カフェでの仕事中、パオロはジェンマと再会する。悪い男と付き合っていたジェンマは初恋が忘れられず戻ってきて同棲を開始するも、同居の母親の世話や、正規採用されるまではと煮え切らないパオロに嫌気がさしてくる。そんなときリッカルドの結婚式でジュリオと再会し、新進気鋭の弁護士として活躍する彼に心移りし二人は深い仲になってしまう。

「大きく考えてみて」

罪悪感に苛まれるジェンマとジュリオはとうとうパオロに打ち明ける。そのときの台詞がこれ。
色々あるけど大きな視野で考えてみてよって、どう考えても強引な理論を展開。だけど畳みかけるように二人が繰り返すから、青天の霹靂であるパオロは動揺して道端にしゃがみ込みながら「大きく考えなくちゃな。うん、そうだ」って丸め込まれちゃう。ええーっと思う反面、いや強引に押し通す方がこういう時うまくいくんだよねーと妙な納得感のあるシーン。そのまま原付バイクに二人乗りして去っていく二人。起こっていることは深刻なのになんだか笑ってしまう。パオロ、ごめん。

それからジェンマはジュリオと同棲を始める。リッカルドには息子が生まれ、パオロは名付け親になるが、病室で気まずくジュリオたちとすれ違う。ジェンマを間に、パオロとジュリオは断交状態に。
ジェンマはカフェのウエイトレスを続けており、これといって人生に目標はない。一方ジュリオの仕事は順調。大手事務所で今までとは正反対の立場の人間を弁護する側になり、誰が見ても悪である大臣を弁護して勝つ。信念と引き換えに報酬や地位を得ていくわけです。その流れでジュリオは大臣の裕福な娘と知り合い、芸術の話などをするうちにジェンマに物足りなさを感じていく。これは仕方ない、かな。そしてジェンマは捨てられ、姿を消す。

あれほど家庭の素晴らしさを説いていたリッカルドは、妻の実家に生計を頼り過ぎていた結果家を追い出され息子と会うことも禁止される。困窮していたところをジュリオと再会し、支援してもらう。
ジュリオは大臣の娘と結婚し他人も羨む生活を手にしていたが、愛情は無く仮面夫婦状態。ジュリオは仕事中心、妻は浮気を繰り返し、傷ついた娘は勝手に振る舞う。ジュリオは娘に、自分が貧しかったころの家に連れて行き、昔の話をする。この娘がいい子でね、ジュリオの良いところが受け継がれたのだな。

パオロは年を取ってようやく正規の教員として採用される。学校へと通うバスの中、偶然息子連れのジェンマと遭遇する。この息子が美しい上にお行儀のよい少年なのだ。はにかむ笑顔が可愛い。ジェンマは独立してカフェ経営をしており息子と二人暮らしをしていた。ジュリオと別れたのがよい転機になったのだねとほっとする。

「心に熱いものを」

そして長い時間が過ぎたあと、ようやくパオロ、ジュリオ、リッカルドの三人は再び旧交を温めることになる。仕事帰り、リストランテで待ち合わせて、閉店後もひたすら若い頃のように飲みまくる。乾杯するときの台詞が確かこれ。昔と変わらず。このシーン、泣けてしかたなかった。
若かりし頃、ジュリオが修理したポンコツ車を酔っ払った四人がひたすら笑いながら何もない道を飛ばすシーンがあったのだけれど、最後車の前で写真を撮るの。キラキラの笑顔で。これはN.Y.の若者たちが同じことをしても全然違う雰囲気になるのだろうなと、流石イタリアと思う場面ね。で、年を取ったけど、あの頃と同じ。一瞬で時空を超えられる。ここすごく好き。

「お楽しみだよ」

別れ難い三人はパオロの家で飲み直すことに。そこで確かリッカルドが言うのがこの台詞だったか「サプライズがあるよ」だったか。なんと家にはジェンマが居たー!パオロとジェンマとその息子はようやく穏やかな生活を手に入れていたのだった。よかったよー。元鞘に収まってこんなによかったと思う映画はない

「ずっと彼を愛していたの。自分でも無意識のうちに」

キッチンでコーヒーをいれるジェンマは、再会したジュリオに告げる。この台詞が一番好き。人生って紆余曲折あっても、歩いていれば必ず正しい目的地に導かれていると常々思うから。ジェンマにとってはパオロが強力な方位磁石となって、よそ見して姿を見失っていたときも常にそこに居たのじゃないかな。
ジュリオはかつて一度は愛した人にこんな台詞を言われてしまっても、それが大切な友人ならば自分の中で折り合いがつくのではないかな。そして自分が居ないところで、愛する人にこんな風に言ってもらえるなんてパオロは一途に思い続けた甲斐があったね、とちょっと泣ける。
四人は思い出話をしながら、再会を約束する。

©2020Lotus Producyion s.r.l. 3Marys Entertainment

これ、日本版のポスターなのだけれど、確かカウントダウンの花火を見ているシーンだと思う。四人がそれぞれの人生に実直に向き合った結果いい感じに大人になっていて、感慨深い。奥からパオロ、ジュリオ、リッカルド、ジェンマ。

「噂に聞いてたよ」


リッカルドは何年越しかでようやく息子との交流が叶うようになっていて、カウントダウンパーティーにも連れてくる。そこでジュリオの娘と出会う。親たちが若い頃車の前で撮った写真を見て息子が確か言うの。離れていてもずっと大事な思い出として互いが別のところで話していたんだな。この二人はなんとなく仲良くなりそうな予感をさせる。次世代の娘、息子たちにも特別な絆になるといい。

これ、感想を1月に書いて収拾つかなくなって放置していたのを今頃書いている。アカデミー賞発表前にまとめて映画感想を書いてしまおうと思ったのにー、色々思い出して長くなっちゃったわ。
リッカルドが良い時も悪い時も絆を繋いでくれていたよなあと。夫としてはダメなタイプかもしれなかったけれど、最高の友人でした。そして繰り返すけれど元鞘に収まって本当に良かったと思える二人だった。ジェンマがすれっからし時代を経て、落ち着きのある素敵な女性に変化している演じ分けもさすが女優だなと。観てよかったー。