トゥ・レスリー To Leslie「くずじゃないと言って」

テキサス。シングルマザーのレスリーは宝くじで当選、19万ドルを手に入れる。だが6年後、全ては酒に消えていた。住む場所を失くし、息子や友人を頼るが愛想を尽かされ、お情けで仕事を恵んでもらえたのに酒がやめられず…。

©2022 To Leslie Productions, Inc.

予告からしてレスリーの人生がきつそうで共感もできなそうだし、観たくなかった。けれど根性で劇場へ。

原題 To Leslie

レスリーへ。邦題はそのまま。

ひたすら描かれる主人公の駄目っぷり

アルコール依存症の中年女性の再生物語。ラストで浮上するために必要な描写だと分かるけれど、主人公レスリーが他人の親切をことごとく裏切り、しかも開き直って悪態をつくということを繰り返すので、いい加減うんざり

冒頭、シングルマザーのレスリーの半生、宝くじで19万ドル(日本円にしたら2,600万円くらいか)当選し、6年後低所得者住宅を追い出されるまでが、新聞記事や写真でテンポよく描かれる。詳細は語られないが酒浸りの現状から推測できる。
演じるアンドレア・ライズボローのガリガリの痩せ方がアルコールしか摂取していない人のいかにもの不健康さを体現。痛々しい。

レスリーは、実家とは絶縁してるのか疎遠である息子ジェームズに頼らざるを得なくなる。ぼろぼろの紙切れを大事に持っていて読み返している。手紙か連絡先のメモか。電話すると仕事(土木作業員のよう)の後、車で迎えに来てくれて住んでいる町をぐるりと案内してくれる。

「自立するまでは居てもいい。けど同居はしない」

そんな優しい息子にこう言わせてしまうレスリーの不甲斐なさよ。
「酒はなし」
約束したにも関わらず、息子が仕事に出た途端、家探しを始める。片っ端から引き出しを開け、服のポケットに札を見つけるや酒屋に直行、店内で飲み始める有様。
「自立の計画はどうなってる?」
息子に聞かれても、のらりくらり。そのうち同居人である息子の友人の部屋に侵入し金を盗み、柄の悪い人たちと飲んだくれているのがばれて追い出される。
「二十歳にもなっていない息子に面倒みさせるなよ」
やっぱり…という展開だが、これ以上ジェームズに害が及ばずほっとする。

ジェームズは祖母(レスリーの母親)ではなく、地元のレスリーの古い友人に相談。友人夫婦がなぜ引き受けてくれたかと言うと、夫の方が当選金のおこぼれにあずかったことがあるようだ。でもその妻ナンシーはレスリーに手厳しい。最初はナンシーがレスリーの母親なのだと勘違いしてた。
後半になって分かるが、ナンシーの当たりが強いのは、かつてレスリーが息子を置いて出て行ったとき、ジェームズに「きっと帰ってくる、あなたを愛してるから」のような嘘を吐く役目を担わされたからのよう。

「まだ分からないけれど、息子にいいものを買ってあげたい」

どうしようもない人間レスリーも、当選時のニュース映像で使い道を聞かれたとき、こんなことも言っていた。そう思う程度にはちゃんと母親だったのだ。
あと「夢だったお店を開くのもいいかもね」とも。
興奮して奇声を発しながら自分を抱き寄せる母を、伸びた前髪の隙間から見上げるジェームズが印象的。

「くずじゃないって言って」

劇中、全ての人に見放されたレスリーは、酒場で隣り合った人に聞く。
「いい人だって言って」「駄目じゃないって言って」
通りすがりの人でいい、誰でもいいから言ってほしいというレスリーが切ない。

ちゃんとしようと思っているのに、できない。意志が弱いから?病気だから?あまりにもたくさんの人に言い訳ばかりして生きてきた付けなのか。

スウィーニーという人物設定

どん底のレスリーに仕事を与えてくれる男性が登場する。

レスリーが再生するきっかけとなる人なのだが、現実にはいないだろうなあと思えてしまうのが残念な設定。百歩譲って哀れだと思った人間に仕事を与える、まではよい。だが明らかに酒浸りの人間に給料を前払いしそのお金で買った酒で二日酔いになって毎回仕事に遅刻する人間を雇い続けるなんてどんなファンタジーなの。

依存症の妻がいたとのことだが、そんな経験があれば避けるのではなかろうか。それともレスリーを身代わりに妻に自分ができなかったことをやり直しているのだろうか。うん、それはあるかもしれない。

最後の方でレスリーといい雰囲気になったとき「そんなの分かってただろう」みたいなことを言うのだが、結局好みの女性だから優しくしたということなんだろうか。それもなんだかやだ、気持ち悪い。

ラスト、スウィーニーがビデオを強制的に見せる。宝くじ当選時のニュース。
かつての自分を見て、レスリーは改心する。本気で酒を断とうと努力する。断酒会や病院の描写は一切ない。
そしてモーテルの前にあるアイス屋の廃墟を改装して自分でダイナーを開く夢を語る。
「十年かかってもいい」
レスリーは言ってその後、スウィーニーと前述したようにいい雰囲気になるのだが、結局十か月後に開店となって、なぬっとなる。それではご都合主義全開の流れではないか。コックも資金も結局人頼み。スウィーニーが全面的に支えている。

開店してもダイナーに客が来ないのは、ナンシーの差し金。でもある夜、ジェームズを連れてきてくれる。そして「意地悪したのは悪かったと思ってる。でもあのときのあんたは絶対許せない」的な仲直りをする。

ナンシーとしては、レスリーにしみったれた姿で視界に入られるのは、ここまで落ちぶれるまでに何も手助けしなかった自分の罪悪感が刺激されて責められるような気がしていらつくのか。その結果としての落としどころなのかと思ったり。

レスリーのくず演技は迫真だったので上映中ずうっと嫌な気分だったし、だから彼女の胸中を想って泣けるところもあって、故にご都合主義的な展開は残念だった。ただひたすら息子ジェームズが不憫で、よく育ったなあとしみじみ。