フォーチュンクッキー「店に行ったら鹿を呼び出して」
米カリフォルニア州フリーモント。アフガニスタン人難民のドニヤはフォーチュンクッキー工場に勤務している。どうしようもなく孤独に苛まれている彼女はある日、フォーチューンクッキーのメッセージに自分の電話番号を書くことを思いつき…。

原題 Fremont
Fremontは主人公ドニヤが暮らしている町の名。
アフガニスタン難民が多く暮らしている。
予告
頑なにならざるを得ない過去を持つ主人公
意志の強そうな瞳と眉をしたドニヤ。彼女は不眠症に悩まされており、友人の予約枠を使って強引に診察を受けに来る。医師に何を言われても絶対に引き下がらない。冒頭、こんなことしたらだから難民は…って思われてしまうのにと図々しく感じる。だが物語が進むうちに、難民として数々の理不尽を受け入れるしかない彼女の生活では、少しでもチャンスがあるなら食らいつくしかないことが分かってくる。
ドニヤは母国では生きるために敵国の通訳をしていた。不眠症は当時の経験が原因のよう。敵国のために働いていたことで冷たい目で見る同胞もいる。
カブール人にしか出会わないから町を出たいと医師に話す。朝まず目にするのはアフガニスタン人、夜寝る前にも見る。
終わりのない単調な生活と、纏わりつく疎外感。そこには閉塞感しかない。
彼女の孤独は一人でいることを自ら選択できる日本における孤独とは全く質が異なる。
では気に入った台詞とともに物語を振り返ってみます。
あなたは幸せを追わず、創る人
ドニヤの工場での仕事はクッキー製造だったが、前任のメッセージを書く人が急死したため、彼女が引き継ぐことになる。
全編通してアキ・カウリスマキ監督っぽいのだけど、ここ、いきなり前任者が机に突っ伏して死ぬシーンは特に。ジム・ジャームッシュの再来と言われるけど、アキ・カウリスマキの方が近いんじゃないかな。
彼女の書くメッセージがいい。幸せを追わず~のほかにも
港にいる船は安全だが、船はそのために造られたわけではない。
今月、あなたの成功を阻むものはないだろう。
どうしようもなく幸せになりたい
ドニヤはメッセージに自分の電話番号を書いたものを混ぜてしまう。
ところがそれは中国系の工場オーナー・リッキーのパーティー用に使われて、招待客が友人であるオーナーの妻・リンに「これは中国で縁起のいい数字か何か?」と尋ねる。
このリンが底意地が悪いの。以前職場のコーヒーマシーンが壊れていて1杯1㌦25と貼り紙には書かれているのに「コーヒー飲む?」と注いだ後に平然と「2㌦50よ」という嫌な人。ドニヤはほとんど表情を変えず言われた通り支払うのだけど、この場面、こういうことに今までも何度も何度も直面していたのだろうな、とドニヤを思い切なくなった。
その後、ドニヤの携帯に連絡が来る。
鹿というあだ名を持つ人は、とても傲慢か、とてもカッコいいか、あるいはその両方か、どちらでもないか
ベーカーズフィールドというかなり遠い場所で会わないかという誘いで、店が指定されていて、着いたら鹿を呼び出してくれ、とテキストメッセージにはあった。
ドニヤは同僚で唯一の?友人に電話で報告すると、彼女が言ったセリフがこれ。
鹿とは奇妙ではあるけれど、ブラインドデートのために服を準備したり、食事のロールプレイングをしたり彼女の行動が可愛らしい。
車は借りるとして、ガソリン代や宿泊費、食事代など彼女はベッドに札を数えて並べていく。つつましい生活からやりくりして会いに行く。
道中、車が故障し、エンジンオイルを交換するために整備工場へ寄る。
そこで一人で店を切り盛りする整備士に出会う。オイルを売ってくれというとただでいいと彼は言う。
手伝いはいらないというドニヤだが、できなそうなので整備士はオイル交換を買って出る。
昼食に隣のダイナーへ別々に行く二人。離れた席から整備士は声を掛ける。
一日中一人でいるから、昼休みはよくしゃべるんだ
会話の中でドニヤは自分はライターだと嘘を吐く。
事務所でコーヒーでもと誘われるが飲まないと断る。コーヒーが飲みたくなったら寄ってくれと整備士は去る。ドニヤは出発する直前、思い返して事務所に立ち寄る。
前後忘れちゃったけど、ここで正直に話すんだったかな。
鹿を呼び出してくれ
目的のアジア系陶器店に到着し、テキストメッセージにあったように鹿を呼び出すように伝える。
すると店員は大きな鹿の置物を運んできて、すぐ来ると思ったのにと言う。陶器店のオーナーはクッキー工場のリンと知り合いで配達料をけちったのだと伝える。つまりドニヤはからかわれていいように利用された訳。
こういう些細な?意地悪が実はいとも簡単に人の心を折ってしまうのだと思う。許せないな。
ドニヤは帰路、整備工場へ再び寄る。鹿の置物を渡すと「こういうのほしかったんだ」と言ってくれる。
この二人はなんとなくうまくいきそうな雰囲気が余韻として残る。たくさん嫌な思いもしたけれど、ちゃんと出会えたから、塞翁が馬ということで。
しかしこの後ドニヤはどうするんだろうな。気まずい工場に戻るだろうか。それとも話相手のためにもう一人雇いたいと言っている整備士の元に留まるんだろうか。何にせよ、彼女が幸せだと自分で感じられる場所で生きてほしい。
好きな映画。
『ホワイトファング』からの引用
ドニヤがカウンセリングを受けている医師が好きな本で、気に入った箇所を読んでくれたりする。
”彼はそこから抜け出したいと思っていました。幸せに暮らしたいと彼はそんなことを考えたのではなく、ただ行動したのです”
この医師は恩着せがましくなくドニヤにとっていい人だと思う。
おまけ
公開直後だったのでフォーチュンクッキーをもらいました。

出してみよう。

えいやっ。

パリン。
