マリー・ミー「セバスチャン呼びはやめて」

ジェニファー・ロペス製作・主演王道のさらにど真ん中を行くラブコメ。これが思いのほかハマる。
歌姫がコンサート会場での公開結婚式に臨んだら直前で婚約者の浮気が判明、観客の中から数学教師を突然指名し結婚を申しこみとりあえずその場をしのごうとするが…。

Ⓒ2021Universal Pictures

ジェニファー・ロペス演じるのは世界的ポップスター・キャット。お付きのものを引き連れているが尊大なところがなくよい人。なので一番近い側近も善人。ここ安心して観られる。重要。

キャットと婚約しているのは音楽界の新星・バスティアン。二人は大ヒットデュエット曲『マリー・ミー』をひっさげて華々しく結婚式を挙げようとしている。
バスティアンを演じるのはマルーマ。実年齢だと親子と言ってもいいような年齢差。なんだけどそれを感じさせないジェニファー・ロペス素晴らしい。ただ劇中、キャットの年齢をマネージャーのコリンが言及するところがオーバー35という表現で切り抜けたのが、シナリオ書く人考えたんだろうなあ…とちょっと笑えた。

突然指名され結婚相手となる数学教師チャーリーを演じるのはオーウェン・ウィルソン。彼が本当にこの役にぴったりだった。ジェニファーがキャスティングまで手掛けていたとしたら、その能力恐るべし。
離婚して一人娘がおり、マスコン(数学コンテスト)での優勝を目指す数学クラブの顧問をしている。きわめて常識人で、キャットの非常識なプロポーズにつき合うことになったときも相手の事情を咄嗟に汲んで「イエス」と答えてあげる寛大さをもつ。
結婚式会場からこっそり移動する車の中でキャットが動顛してこんなことに巻き込んでしまったことを謝り落ち込んでいると「それだけ相手を大切に思ってたってことだよね」みたいなことを言って慰める。え、何この人…素敵…と、もうここで大半の女性は恋に落ちるのではないでしょうか。この海よりも広く深い度量、寛容さにパートナーの理想形を見た。

普通なら出会うようなことのない住む世界の違う二人が、コミュニケーションをとるうちに恋に落ちるという話は、ラブストーリーの一つのパターンなわけで、本作もそれに則って進む。
一夜を共にした翌朝、彼のシャツを羽織って青りんごをかじりながら扉に寄りかかっているシーンは、その古臭いパターンが1周回って新鮮。製作ジェニファー・ロペスなので、そういう人だったのかと好感度上がったり。
自分で飛行機のチケットを取れなくて空港カウンターでマネージャーが助けてくれたり、薄着のまま極寒の地に到着しちゃったり、ミキサーの蓋をしないでスムージー暴発させちゃったり、既視感のあることが連なっているのに全く嫌にならない。たぶんジェニファー・ロペスいい人だから。

ジェニファー・ロペスについて、男性と女性では受け取り方が結構違うのかもしれない。
女性は50過ぎてもまだまだいけるんだ、すごい!だし、一方で男性はその迫力に圧倒されるかな。
どこかで読んだ気がするのだけれど”彼女は女性の老化に対するステレオタイプなイメージに反抗し続けている”みたいな点に共感を覚えた。数年前あったような美魔女ブームとは一線を画していて、あくまでもステレオタイプ、世間との闘いなのよね。

今回お気に入りの台詞は、こちら。
キャットが元婚約者バスティアンを本名で呼んだ時に、チャーリーが言った「セバスチャンはやめて」
相手のことを信じてはいるけれど、世間が作り出す復縁ムードと仕事とはいえ共演を楽しんでいるかのように見える状況に対し、ついこぼれてしまった本音。あー、これなー。わーかーるーわー、これ。その一言で一気にキャットとバスティアンの間にかつてあった親密な時間が目の前に引っ張り出される感じで、分かっているつもりでも全然割り切れていない自分がいると言うね。

この映画ちょいちょいぐっとくる台詞があるし、基本善人しか出てこないし、心を平静に保ちたいとき繰り返し観たいです。